エイリアン・アルティメット・コレクションDVD
20世紀フォックスのSFスペクタクル映画『エイリアン』シリーズの1~4作目を特典映像満載で9枚組DVDボックスにまとめた『エイリアン・アルティメット・コレクション』を購入。リドリー・スコットの出世作である79年の1作目から全作をリアル・タイムで映画館で見ている。87年に池袋パルコで行われたギーガー展でのエイリアンのデザイナーであるスイスのエアブラシ・アーティスト、H・R・ギーガーの講演会にも行くことができたし、終了後画集にサインを貰って、握手もしてもらったほどの筋金入りファンである。しかし本当に傑作だと思うのは1作目のみで、それ以降は所謂娯楽大作と割り切って見ていた。
ジェームズ・キャメロン監督の2作目は戦争スペクタクル映画で、アドレナリンが上がるカタルシス溢れる内容だが、今見ると内容は今イラクで米軍がやっていることとまるで同じである。自分の国でもない異国に押しかけて植民地化し、文化の違う先住民(厳密にはエイリアンも他の惑星からの移住者であるが)を皆殺しにした挙句、核攻撃で絶滅させようとする。ブッシュも本音はイラクを核兵器で始末してしまいたいところではないだろうか。理解できないもの=絶滅させるというべきという図式はこのシリーズ全体に貫かれたテーマでもある。
「デリカテッセン」で注目され「アメリ」で人気が爆発したフランスのジャン・ピエール・ジュネが2作の間に監督した「エイリアン4」も、前作でエイリアンと心中したリプリーの復活という最悪のシナリオを独特のユーモアも交えてある水準まで昇華していて、無理があるものの楽しい1作である。メイキングではシガニー・ウィーバーがバスケット・ボールをロングのバック・シュートで入れるシーンを本番一発でキメてしまい、現場が歓喜に沸きまくるシーンが印象的だった。
若干27歳だったデヴィッド・フィンチャーのデビュー作である3作目はファンの間でも一番問題作で評価も低い内容だったが、今回本編ではカットされたシーンを大量に復活させた145分の完全版で蘇った。特に牛から産まれるエイリアンという当初の設定は圧巻。しかしこの完全版にはフィンチャーは一切タッチしておらず、他の3作ではそれぞれの監督がコメンタリーやインタビューに参加していたが、それにも一切応じていない。フィンチャーにとっては二度と思い出したくない悪夢のような体験であったことは長時間のメイキング映像を見て理解できた。上層部の混乱と無理解から脚本家が8人も変わった挙句、まともに脚本も完成していない状態での撮影スタートで、次々に予定や設定が変更され、現場にまでやってきたプロデューサーに口を出され、混乱に混乱を重ねて、延期につぐ延期の挙句、どうにか完成した作品をズタズタに編集されてしまったのだ。
今回の完全版を見るとフィンチャーが本当に描きたかった囚人惑星の殺伐とした描写や宗教にのめりこむ囚人の苦悩。容赦なく死んでいく重要人物への無慈悲さに大きく深みが加わったようである。前作の続編ではなく1本の映画としてみると全く印象が変わって、傑作といってもいい程である。
ハリウッドの最悪の環境を象徴している映画の見本であるが、そのシステムを勉強するには、ボーナス特典のメイキング映像はもってこいの内容である。
惜しむべきは最初予定されていたウィリアム・ギブスンの脚本での映画化が実現していればなと。当時のインタビューで彼のアイデアが採用された部分は囚人達の後頭部に施されたバーコードの刺青だけだったとのこと。
あと苦言を呈するなら米国盤に収録されていた2作目と3作目の劇場公開ヴァージョンが収録されていないこと(その変わりに2、3作目は米国盤にはないDTS音声で収録されている)。2作目の劇場公開版は1度も日本でDVD化されていないとのこと。
あと、シガニーとか露骨に嫌がっているだろう製作中の「エイリアンVSプレデター」という映画。今まで築き上げていたサーガをなし崩しにしてしまうような幼稚な企画。誰か止める人はいなかったのであろうか。ハリウッドはそこまで腐り、落ちぶれているのだろうか。
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