すいか@日テレ
まるで奇跡のようにどっぷりと心に染み入ってしまうような物語というものに、生涯どれだけ出会えるのか分かりませんが、私にとって大切な思い出となったものが、昨年の夏に日本テレビで土曜日9時に全10回で放送されたドラマ『すいか』です。視聴率的には失敗という結果に終わったこのドラマですが、出演者のともさかりえが日記にしたためたように「大切な宝物」になってしまった人も多いと聞きます。閑散としていた2ちゃんねるの実況板でもそれを実感しておりました。最近、私と同じくこのドラマが好きで録画ビデオを持っている方にやっと巡り会い、借りることができて久々に見直しました。第1回は見逃していたのでまさに夢のよう。既にレンタル・ビデオもDVDも発売されておりますが、近所の寂れたレンタル・ビデオ屋には置いておらず、DVDも4枚組で1万8千円以上してちょっと手が出ず、歯がゆい思いをしていたのでした。
未見だった第1回のオープニングに双子の少女が登場したところで全てを察し、「絆のお姉さんがまだ生きている!」と目頭が熱くなってしまいました。まあ見ていた人には分かってもらえるかなあ。
ゆったりとした時間の流れで毎回少しづつ心を豊かにしていく主人公早川基子(小林聡美)に自分を当てはめた人も多かったのではないでしょうか。日常、日常、日常の積み重ねも、幸せなど心の持ち方でいつでも見つけられるのだと。
主要人物に加えて、ほんのちょい役の人たちにまで不思議な魅力と愛おしさを感じてしまう脚本と演出の力には、もう言葉もありません。ドラマのサウンドトラックとしては希に見る傑作と感じた音楽も重要なファクターとして物語を演出していました(CCCDでしか発売されていないのが残念)。唯一、非現実的な存在として全編を貫く3億円横領逃亡犯、馬場万里子(小泉今日子)の存在が、感情的にはとても大きなものとなってフィクションの素晴らしさを醸し出しています。逃亡の果てに警察に追い詰められた小泉今日子が、全力疾走しながら「苦しいよ!早川!苦しいよ!」と唯一の親友を頼り泣き叫ぶ姿ほど人生にもがき苦しむ演技は見たことがないと言ってもいい程です。
舞台となった下宿、ハピネス三茶のあの夏の風景は、昼下がりの扇風機と風鈴と猫の鳴き声と共に、永遠のオアシスとして、多くの視聴者の心の記憶に刻まれたのではないでしょうか。
『やっぱり猫が好き』でも有名な脚本の木皿泉(男女2人のユニット)はこの作品で、放送終了後7ヵ月目の今年4月に第22回 向田邦子賞を受賞しました。
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