ザッパ・プレイズ・ザッパ 大阪公演
Frank Zappaの息子Dweezil Zappaが親の曲を完全コピーで再現するライブ・バンド、Zappa Plays Zappaの待望の来日公演初日を1月21日にZepp Osakaで見た。主催者のSMASHにはよくぞ呼んでくれたと感謝したい。
最近ではレッド・ツェッペリンの再結成ライブや、中川翔子の初ライブ「貪欲祭り」などでも亡き父親のレパートリーを子がプレイしていたが、フランク・ザッパとなると、テクニックも最高水準のものが要求され、並大抵の覚悟では完全再現などできるものではない。
かつてザッパ不在のザッパ・バンドとして挙げられるものに、ザッパ存命中の1991年11月にニューヨークで行われたトリビュート・コンサート"Zappa's Universe"(ドウィージル、スティーヴ・ヴァイも参加、スウェーデンのMats & Morganが参加していることでも有名)があるが、あれはオーケストラなども含んだ変化球だったのに対し、今回のプロジェクトは7人編成の本格的ロック・バンドで、ザッパの世界を演奏とスピリットの両面で完全に再現しようというもの。既に北米と豪州においてかなりのライブを積み重ねており、それらの音源を聴いて、あまりの完成度に度肝を抜かれた。
スペシャル・ゲストとして本物のザッパ・バンドのメンバーだったRay WhiteとSteve Vaiも参加しての豪華布陣での来日公演となった。
まず、実際のザッパ・バンドを生で聴く機会は永遠に失われてしまったと思われた。ザッパのコピーバンド数あれど、おそらくテクニックだけはなんとかなっても、あの毒気とユーモアを表現できるのは不可能なはずだと諦めていた。
今回のプロジェクトは親族が本格的に取り組んだだけあって、メンバー全員、とんでもないテクニックを持っていて、複雑極まりないレパートリーを完全に再現。恐らくは実際のザッパ・バンドに限りなく近い味わいを醸し出していたと思われる。今ザッパが生きていたら、メンバーとして雇っても十分通用するだけの凄腕のミュージシャン達だった。
メンバーが登場し、ドゥイージルの指揮でちょっとした音出しをして"Florentine Pogen"からスタート、最前列の一番右端PA真ん前という、いいのか悪いのかよくわからん席(一昨年のPorcupine Tree & Robert Frippの時も偶然にも全く同じ席だった。)だったが、とにかく音の分離が凄まじく良くて、各楽器の一音一音がとてもクリアに聴こえた。
ドゥイージルのギター・テクニックはかなり凄く、フィーリングも親に迫りつつある。一応、1986年17歳の時に出したデビュー・アルバム、"Havin' A Bad Day"(フランク・ザッパがプロデュースして、リズム隊も当時のザッパ・バンドのScott ThunesとChad Wackerman)も発売当時買ったのだが、その時は17歳の子供らしい稚拙な作品だなーという印象だった。それが21年たってこんなに立派なギタリストになって・・・。しみじみと感慨にふけってしまった。
ザッパ自身が弾くギターの音のみ抽出したザッパのライブ映像と実際のバンドの共演が前半"Cosmic Debris"と後半"Montana"に2曲あって、これが凄い。スクリーンに映し出された1974年頃のザッパのライブ映像とドゥイージルとの親子ヴァーチャル・ギター合戦も、まるで生きているうちに打ち合わせしていたかのような完成度であった。
レイ・ホワイトのエンタティナーぶりは本家バンドから全く衰えておらず、ドゥイージルに「即興でスシの歌を歌ってくれ」と言われ、「オ~サカ~、ワサビ~」などと熱唱。
特別ゲストのスティーヴ・ヴァイは70分を超えたあたりで「今日は僕の友達が来てます。スティーヴ・ヴァイです!」とドゥイージルに日本語で紹介されやっと登場し"Andy"から"City of Tiny Lites"までの7曲とアンコールの"Muffin Man"に参加。プレイはかなり控えめで、ヴァイ目当てに来たファンはちょっと物足りなかったかも。ザッパ・バンド時代の肩書きがスタント・マンならぬスタント・ギターだったので、影に徹していようと思ったのか。ヴァイ自体を見るのは1988年のデイヴ・リー・ロスのバック&1994年3月のソロ初来日から5度目だが、やっと彼のキャリアの原点に戻ったかのようなプレイが見られて幸せだった。
本編ラストは『イリノイの浣腸強盗』、レイ・ホワイトのボーカルで聴けたのは格別。
アンコール1曲目は難易度ナンバー1で、ザッパ・バンドでは演奏されず、ドイツの現代音楽集団アンサンブル・モデルンなどがカバーしていた"G-Spot Tornado"。これを軽々と演奏してしまうところが凄い。
最後はメンバー紹介をたっぷり含んだ"Muffin Man"、父親も映像で再登場、ヴァイも再び出てきて大団円。
終演後、ドウィージルはステージに1人残って、百人以上のファンとの握手に気軽に応じてくれた。私も握手してもらう。ええ奴やんか!
とにかくザッパの名曲の数々を最高の状態で生で聴けたのは、何物にも替え難い経験であった。ドゥイージルは遺産相続人としての義務を完璧に全うしてくれた。これほどの親孝行はないだろう。
東京・横浜公演のセット・リストを見ると全然違っていて、大阪が一番地味で渋い選曲だったかもしれない。"Zoot Allures", "Black Napkin", "Black Page", "Peaches" "Yo Mamma"なども生で聴きたかった・・・。
Zappa Plays Zappa 2008/01/21 Zepp Osaka
Dweezil Zappa / Guitar, Vocal
Aaron Arntz / Keyboards & Trumpet
Scheila Gonzalez / Saxophone, Flute, Keyboards & Vocals
Pete Griffin / Bass
Billy Hulting / Marimba, Mallets & Percussion
Jamie Kime / Guitar
Joe Travers / Drums & Vocals
Special Guests
Ray White / Guitar and Vocals
Steve Vai / Guitar
01. Florentine Pogen
02. Cheepnis
03. Magic Fingers
04. Carolina Hard-Core Ecstasy
05. Cosmik Debris
06. Pygmy Twylite
07. Dupree's Paradise
08. Uncle Remus
09. Willie The Pimp
10. Andy
11. Advance Romance
12. Filthy Habits
13. I'm The Slime
14. Montana
15. Echidna's Arf (Of You)
16. City Of Tiny Lites
17. The Illinois Enema Bandit
encore
18. G-Spot Tornado
19. Muffin Man
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
ZPZはとても良かったです。リスナーが聴き馴染んでいるCDでの雰囲気を壊すことなく演奏してくれて、萌えどころが満載でした。何度も目頭が熱くなりました。ライブがあればあっただけ、毎日でもこのライブを見続けたいと思いました。
イリノイの浣腸強盗をシーラ・ゴンザレスが歌っているところなど、楽しくて仕方ありませんでした。シーラはサックス2本をくわえて吹いて見せたり、楽しかったです。
投稿: ごんぐるぐる | 2008/01/27 23:18
>ごんぐるぐるさん
遠征3公演制覇お疲れ様でした。確かにアルバム作品の雰囲気を崩すことなく忠実に再現していたのは素晴らしかったです。私も全部見たかったですねー。
シーラはマルチ・プレーヤーぶりを発揮してましたね。84年ツアーの時のボビー・マーティン的存在でしょうか。テクニックとユーモアと毒気のあるバンドに女性がいるといいですねー。
投稿: tangerine | 2008/01/28 00:26
今年一緒に見れたライブがZPZとは幸先良いです。
メンバーが各々ボーカルも上手いし、各曲の途中に入る多種の異物の様な(?)サウンドも再現してくれるし、想像以上でした。
ザッパのライブもこんな感じだったのだろうか?と思わせてしまう、ファン納得のライブでしたね。
又、来てくれー。
投稿: pawnhearts | 2008/01/28 22:11
>pawnheartsさん
どうもです。ZPZ各種効果音まで再現していて本当に凄かったですね。
本物のザッパのライブが体験できない以上、限りなく近似値に近いライブで再体験できたのは貴重でした。本物の偉大さも再認識しました。
投稿: tangerine | 2008/01/29 07:32