Klaus Schulze ドイツ ローレライ公演
Klaus Schulze featuring Lisa Gerrardのライブを7月18日、ドイツのローレライ野外ステージ、Loreley Freilichtbuhneで見た。日本でのライブは1972年のソロ・デビュー以来1度も実現しておらず、ヨーロッパにおけるコンサートも約5年ぶり。ファン歴はまだ27年しかないが、私の音楽人生の頂点のひとりであり続けた人。
昨年12月にチケットを購入し、周到に計画を練ってここまで辿りついたが、今年の春に久々に行われる予定だったボローニャとパリでのコンサートが体調不良で直前に中止されており、今回のローレライのフェスティバルも直前まで予断を許さない状態だった。オフィシャル・サイトを直前までチェックして、どうやらローレライには出演するらしいと解かり、覚悟を決めてドイツに飛んだ。
やっとの思いで会場に到着し(前の日記参照)、会場に入ると、すでにこの日2番目の出演バンドHipgnosisのライブが始まっており、約5千人分あるという石段の座席の中間あたりに適当に座ってみる。
Hipgnosisは女性ボーカルをフューチャーしたシンフォニック系の解かりやすい所謂プログレ・バンドだった。40分ほど見ているとステージが終わり、15分ほどのセットチェンジがあって、北欧ロック・ファンの友人推薦のスウェーデンのIsildurs Baneのライブが始まる。同じスウェーデンのAnekdotenと同様に女性チェロ奏者がいるが、音はアヴァンギャルドでSamla Mammas Mannaに近い印象。女性チェロ奏者はメガホン・マイクで声を歪ませてボーカルをとったりもして、おもしろかった。
続いて1983年6月28日の大阪公演以来久々に見るTangerine Dreamの登場。詳細は後日書く予定だが、クラウス・シュルツェとは全く別の意味で、想像以上に素晴らしいステージだった。
タンジェリン・ドリームはアンコールを3曲プレイし、2時間に渡るステージが終了。もう夜の10時半を過ぎており、ようやくあたりが暗くなってくる。ドイツの夜は夏でも寒く、気温は20度以下に下がっており、寒さが堪えたが、友人に長袖のトレーナーを借りてきたので、それを羽織って寒さを凌いだ。
クラウス・シュルツェの巨大な壁のような機材(大部分がQuasimidiのラック・シンセ)がステージにセッティングされ始め、いよいよ本当にシュルツェが演奏するのだ!と思うと興奮してくる。それ以上にとにかく緊張してしまった。観客も静かにその時を待つ。
いよいよ時間となり、シュルツェが白いスーツ姿で登場。歩く姿は病み上がりからか、ちょっとゆったりとした印象だったが、まぎれもなく神と崇める御大その人だった。普通の人間の大きさで、普通の人間のように歩いている!!ステージ下手にあるマイクの前に立って、ドイツ語で挨拶。
ドイツ語の聞き取りが不慣れなもんで、完全には解からなかったけど、「再びステージに立てて、幸せです。まず30分ほどソロで演奏し、それからLisaと一緒にやります。」という雰囲気だった。
1曲目から静かに演奏が始まる。タンジェリンの熱狂的でダンサブルなステージをチル・アウトするかのような静かな展開は山中の野外ステージにぴったりの雰囲気で、オーディエンスも聴き入っている。新作"Farscape"のオープニング、"Liquid Coincidence 1"をアレンジした曲だった。外科医のような正確な手つきで、シンセ群を操作するシュルツ。15分位たったところで、静かなシーケンス・パターンが加わるが、最後まで静かな雰囲気で25分ほど演奏。
メインに使っているキーボードはE-mu SystemsとRoland JD800、ミニムーグ、EMS Synthi Aなどで、Apple iBook G3もセッティングされていた。背後のQuasimidi Rave-O-Lution群で出来た壁が凄い迫力だが、実際につまみを操作していたのは1台か2台だったように見えた。
今回のパフォーマンスは全編数名のビデオ・クルーによって撮影されており、クルーが観客おかまいなしに死角になって撮影していたので、いささか邪魔なのが気になった。しかしこれがリリースされれば、歴史的な価値を持つだろう内容であろう。
徐々にフェイドアウトしていく曲の最後の一音まで聴きとってから、観客から割れるような拍手。シュルツェはステージ下手のマイクに歩み寄ってまたまたスピーチ。ちょっとドイツ語で冗談めいたことを言って観客にウケていたが、聞き取れず。
静かなテンションを保ったまま2曲目が始まる。10分ほどたって新作で共演しているDead Can Danceのメンバーで有名なリサ・ジェラルドが深紫のオペラ衣装でドレスアップして登場し、シュルツの左側で静か歌い始める。
リサはアルバムどおり、終始ゆったりとした静寂を醸した唱法で独特の世界を作り出していた。他のコーラスパートなどはシュルツが出しているようで、静かながら重圧感あふれる音の波が、山頂の自然と調和して、凄い効果をもたらしていた。だんだんとシーケンスパターンがハードに盛り上がっていくと、観客から大歓声が湧き上がる。テクノのイベントのパターンだが、凶暴さをこんなに静かに演出できるのもシュルツェならではだ。
1曲が終わり、拍手が沸き起こったが、音は途切れずにそのまま次の章に突入し、50分ほどに抜粋された"Farscape"はLisaのアカペラで静かに終わった。また最後の一音まで静寂を保って、観客ほぼ全員がスタンディング・オベーションで拍手喝采を送った。シュルツェとリザから感謝の言葉があり、一旦退場。
鳴り止まぬ拍手で再び登場したシュルツェはマイクで挨拶すると、ソロで強いシーケンスリズムを打ち始めててハードな演奏を展開。ミニ・ムーグを弾きまくっているシュルツは凄まじく凶暴なエレクトロニクスの帝王だった。
10分ほど演奏は続き、唐突に終焉するも、拍手は鳴り止まず、今度はリサ・ジェラルドが1人で登場し、アカペラで静かに歌いだし、5分ほどたったところで、シュルツェが加わって、静かに音を加えていった。15分ほどの演奏の後、音が止むも、しばらく完全な静寂が続いた。再び総員でスタンディング・オベーション。
時間は夜中の1時15分あたりで、これでさすがに終わりかと思われたが、信じられないことに、シュルツェは3度目のアンコールに応じて登場。マイクでお礼と「リサと演奏できて特別なエネルギーを感じられた」といった感じのアナウンスを行い、ソロで2001年リリースのライブ・アルバム"Live @ Klangart"1枚目の"Breeze to Sequence"を約10分にわたって演奏。小雨が降り出してきたが、おもわず最前列まで行って、目の前で御大が楽器群を操作するのを拝観。リズムは強烈だが、デリケートなシーケンスパターンが複合された、21世紀のシュルツェ・サウンドをたっぷりと堪能できた。
とうとう最後の演奏が終わり、シュルツェは「また会いましょう。ありがとう。」とアナウンスして退場。終演は夜中の1時半となった。呆然自失状態だったが、シュルツェの物販コーナーでしっかりとグレイの"Mirage"Tシャツを購入し、寒さに震えながらテントに戻った。
本当にシュルツェが登場した時の感動は、何物にも替えがたいものでした。ここに至る道は長く困難なものでしたが、人生でまだ見ぬ最後の大物を見られた感動で全て報われた気分でした。夢を叶えてくれた全ての人に感謝します。
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コメント
お~、これは感動的なレポートです。素晴らしいです。
投稿: KEN | 2008/07/31 02:01
上に同じであります。私はシュルツェは1度しか聴いた事がありません。でも、このレポートはかなりかなり読み応えがあり、あまり聴いた事のない者をも唸らせ、巻き込んでしまう熱い風です。
投稿: リバティ | 2008/07/31 19:54
11回もドイツに行って、住んでたこともあるのに、これまではタイミングが合わなかったんですか?なら、なおさら感激ですね!生涯の感動体験、おめでとうございます!
シュルツ、この10年くらいの作品を全く聴いてないよ…何か買ってみます。
投稿: 本座村 | 2008/07/31 23:52
お疲れ様です。まだドイツですか?
素晴らしいですねー、勉強不足で、シュルツェ氏のことは全く知りませんが、tangerineさんの感動はとても伝わってきました!
こういう感動体験大事ですねー、そうないですからねー。
投稿: Leek | 2008/08/01 21:50
>KENさん
ありがとうございます。ここまで長かったです。実際。なにもあんな僻地でやらなくても・・・とも思ったのですが、大自然の中で聴くシュルツは格別でした。
>リバティさん
1度しか聴いたことないのに、読んでいただきありがとうございます。アルバムは山ほど出しているのに、ここ10年は数度しかライブをしていなかったので、数少ないチャンスに賭けたという感じです。これを機会にまた聴いてみていただければ幸いです。
>本座村さん
どうもです。そうなんですよ。なぜかタイミングが合わなかったのでした。だいたい今まで会ったドイツ人でシュルツを知っている人がいませんでしたし・・・。この10年だと、ひとつ前の"KONTINUUM"がお勧めですね。また聴いてみてくださいね。
>Leekさん
どうもコメントいただいてありがとうございます!なんとか先週帰国しております。ドイツのフェス体験はかなりハードですが、行った甲斐がありました。Klaus Schulzeさんは70年代初期にドイツの実験音楽集団Tangerine Dreamのオリジナル・メンバーだった人で、Kraftwerk, Cluster, Neuとかとともに、現在のエレクトロニクス・ミュージック、テクノ・ミュージック,アンビエント、トランスなどの基礎を築いた人です。明日8月4日で61歳なんですが、現役バリバリでした。なんかこっちもやる気が出てしまい、「別冊大人の科学マガジン」最新号のシンセサイザー組み立てキットなんか買ってしまいました!
投稿: tangerine | 2008/08/03 01:52