Roger Waters The Wall ニューヨーク公演 2012年7月6, 7日
ロジャー・ウォーターズのThe Wallライブを7月6,7日の2日間、ニューヨークのヤンキー・スタジアムで見ました。ツアー開始地点の2010年9月15,16,18日のトロント・エア・カナダ・センター公演を見に行って約2年ぶりの鑑賞。2002年の日本公演5公演を含めると、今回でロジャーのライブを見るのは10回目となりました。
ツアーは2010年北米56公演、2011年ヨーロッパ64公演、2012年オセアニア15公演、南米15公演、北米42公演の全192公演行われ、今回のニューヨーク公演は最後から6,7公演目という終盤に近いもの。
『ザ・ウォール』のライブの構成に関しては、前回に詳しくレポートしているので、参照いただければと思います。
http://thenoisehomepage.cocolog-nifty.com/small_talk/2010/09/roger-waters--1.html
http://thenoisehomepage.cocolog-nifty.com/small_talk/2010/09/roger-waters--2.html
ツアー初日から22ヶ月ぶりの鑑賞であり、今回はアリーナでなく屋外の野球場ということで、構成の変更点などに絞って感想を書きます。
前回一緒にトロントに見に行った友人と今回はそのご家族も同行。今回は春にKARAのツアーやドイツ遠征などもあり、チケット手配や飛行機・ホテルの確保までほぼおまかせしてしまった感じで、感覚的には私が連れて行ってもらった気分。前日午前中にJFKに到着。電車でマンハッタン入り。マジソン・スクエア・ガーデンのまん前のホテルにチェックイン。前回の北米ツアーではここでやっているので、今回もここなら楽だったのだが。しかし『レッド・ツェッペリン狂熱のライブ』を何百回と見た世代としては、MSGが目の前にあるだけで感慨深いものがあった。
アメリカは12年ぶりで、ニューヨークは初めてだったので、おのぼりさん気分でライブ直前まであちこち観光。
ライブは20時半開演で、1時間前に到着するように地下鉄でマンハッタン島の北の外れにある野球場ヤンキー・スタジアムに向けて出発。
地下鉄の中ではロジャーやピンク・フロイドのTシャツを来た人が多数いて、車内から盛り上がっていく。
到着すると既に人の波で、流れにまかせて球場に。チケット・オフィスで友人が予約購入していたチケットを受け渡してもらい、球場内に。グッズ売り場は数箇所にあったが、日本のように買いまくる人はほとんどおらず。2012年版のパンフレットを25ドルで買ったが、そんなに売れている様子はなかった。
これで、2010年版と、2011年のチューリッヒ公演を見た友人のお土産版を合わせて、3種類のパンフレットを揃えることができた。
球場内は野球観戦のノリで、ビール、ホットドッグ、フライドポテトなどのスタンドが盛況で、トロントの時と同じくスポーツ観戦のノリ。あちこちにNYPDの警官が警備にあたっているのもアメリカならではだろう。野球観戦と同じく、客席までビールやミネラル・ウォーターを売り歩いている店員が多く見られた。これが、演奏の最中にも大声で「ビールいかがっすか~!」と叫んでいて絶句。それに誰も文句を言わず、むしろ喜んでビールを買っている。日本では考えられない。
客席は奮発してスタンドではなくフィールド席の前のほうが買えたので、初日は20列目くらいのやや右端、2日目はさらに少し後方の左端というポジション。フィールド席の数はそんなに多く感じられず、セットが1/3位を締めて、後方もコンソールやプロジェクター投影のためのタワーが建てられていたので、席が作られていなかった。ステージの幅はアリーナ・ツアーの倍近くあったが、壁の幅が長くなった感じで、実際に組み込んでいく壁と演奏スペースの広さはそんなに変わっていない。が、あいかわらずのスケールの大きさに唖然とした。
ロジャーは77年のスタジアム・ツアーで、演奏をまともに聴かず大騒ぎしている、お祭気分の観客との隔たりを感じてThe Wallを作ったはずで、その後もスタジアム・ツアーは拒んできたのに、アリーナ・ツアーであまりに大成功を収めたので、集客力を見込んでスタジアムに移行せずにはおられなかったのだろうか。本末転倒という気もするが、とりあえず見に来ている観客はThe Wallという作品が好きで、どういうコンセプトなのかを知り尽くしているだろうから許してしまえる。
ジョン・レノンやボブ・ディランがBGMで流れる中、空が薄暗くなっていき、21時前にようやく日が落ちて、開始前のアナウンス「カメラで写真を撮る場合はフラッシュを点灯しないでください。投影による演出に影響を及ぼし、これは一番重要なショーの演出です」とのこと。ツアー開始当時から撮影はOKなのは、もうそんなことを取り締まっている余地はないという判断だろう。
恒例の映画『スパルタカス』のクライマックス・シーンの音声が流れ、ピンク君の人形がステージに放り込まれる。今回はアリーナ・ツアーで見た会場を巡回しているホームレスの仕込み役者が見当たらなかった。ロジャーの吹くトランペットで"Out Side Of The Wall"が流れ、ライブ開始。
最初のど派手な花火や大勢の旗手を乗せてせり上がるステージ、後方から飛んでくる戦闘機などは、いつもと同じ。
その後も同じ構成で進行していく、壁に投影される映像が若干リニューアルしている。
予想はしていたが、野外コンサートなのに、自宅でステレオを聴いているよりも音質が良いのは信じられない。ピンク・フロイド時代から長年蓄積されたPAシステムのマジックを思い知らされる。
壁の幅が広すぎるので、両側がオーロラ・ヴィジョン代わりにミュージシャンのアップを映し出す役割も兼ねていた。
Another Brick In The Wall Pt 2で地元の子供たちのコーラスが出てくるし、ティーチャーの巨大な風船パペットが出てくるのも変わらない。
その後にリプライズ的なロジャーのアコースティック弾き語りである"The Ballad Of Jean Charles de Menezes"(曲目がパンフレットに掲載)が演奏される。これは前回には無かったもの。調べると2011年6月16日のベルリン公演から追加されたものとのこと。
終了後にロジャーが珍しくMCをする。先ほどのリプライズ曲が、2005年のロンドンの多発テロの容疑者と間違えられて警官に射殺されたブラジル人青年のJean Charles de Menezesに捧げたもので、この曲を世界中の全てのテロ犠牲者に捧げるという内容。
壁の幅がとてつもなく広くて、それいっぱいに映像が投影されるので、前方の席では視界に収まらずIMAXシアターで見ている感じ。
しかし欧米人は背が高く、前の客が立つとステージが全く見えなかったりするのでフィールド席も一長一短である。
"Goodbye Blue Sky"でのアニメでB52爆撃機の大群が爆弾の代わりに投下する赤色の十字架(キリスト教)、六芒星(ユダヤ教)、三日月(イスラム教)、ドル・マーク、石油のシェルのロゴ、ベンツのロゴなどに、あらたにマクドナルドのロゴが加わっていた。
"Don't Leave Me Now"の滴り落ちる緑の血や、"The Last Few Bricks"でのレンガが大移動するCGも、前回から更新されていた。今年のスタジアム・ツアー用にリニューアルしたのかもしれない。
"Goodbye Cruel World"が終わって壁が完成され、20分の休憩。壁には前回と同じく世界の戦争犠牲者のプロフィールが投影される。やはりアメリカ人は皆ビールを買いに行く。
『あと5分でステージがスタートします』とのアナウンスがあり、"Hey You"で第2部が始まる。ほぼ壁に投影される映像の演出のみで進行。
"Nobody Home"で壁の一部が開き、ホテルの部屋でくつろぐロジャーが歌うのもお馴染みの光景。しかし壁が長く、席から遠い左側だったので、ほとんど見えなかった。
"Vera"での「戦場から帰還した兵士が学校に慰問に来た感じで、その中に帰ったとは知らなかった父がいて泣きながら抱きつく」という一番感動的ドキュメント・フィルムはまだ健在で、そのほかにいくつか新しいものが加えられていた模様。
"Comfortably Numb"も構成は同じで、デヴィッド・キルミンスターによる壁の上でのギター・ソロもいつもどおり。
"In The Flesh"では最後にナチ風の「ピンク党」の衣装のロジャーがシュマイザー・マシンガンを客席に向かって撃ちまくる演出が追加された。モデルガンだろうけど、アメリカだとかなりリスキーな演出という気がする。
そしてあの巨大な豚も、ステージ左上空に現れて、空を飛んでいく。今回は野外なので、そのまま風で球場外に飛んでいかないように、ロープが垂れ下がっていて、スタッフが掴んで、豚の動きに合わせて客席間を移動していってた。
"Run Like Hell"の極限まで盛り上がる映像演出とロジャーの煽りで、観客の興奮は頂点に達する。何回見ても凄い。
"Waiting For The Worms"~"Stop"~"The Trial"での映像演出は前回と同じで、1980年ツアーからのジェラール・スカーフのアニメに重点を置いたもの。あのハンマーの行進が巨大すぎるスタジアムの壁一面に投影される様子は圧倒的としか言いようがない。
いよいよ最後に壁が崩壊するが、壁の幅の長さに対して、崩れる部分の規格がホール・ツアーの時と同じだったので、ちょっと物足りなく感じてしまった。「真ん中らへんがちょっとだけ崩れた」ように見えてしまう。十分凄いのだろうけど。横の崩れない部分は映像投影で崩れているように見せていた。初日は崩れ方に難があり、スタッフが手で無理やり引き剥がして落としていたりした。
今回は" Goodbye Blue Sky"で爆撃機が投下していた十字架、六芒星、三日月、ドル・マーク、石油のシェルのロゴ、ベンツのロゴの無数の赤い紙吹雪が最後に舞い落ちてくる演出は無かった。スタジアムだし掃除が大変だからだろうか。
崩壊後の円形スクリーンに少女が舞い降りてくる映像は同じ。バンドが行進しながら"Outside The Wall "を演奏。ロジャーから感謝の挨拶があり、リプライズで演奏が始まり、ロジャーがバンド・メンバーを1人づつ紹介。紹介されたメンバーから退場していく。最後に自己紹介してロジャーが退場し終了。
初日は退場時に壁の裏側を通ることができて、その構造をほんの一部分だけ見ることができた。
"The Wall"はやはり1980年の初演からアリーナ・クラスの会場を意識して構成されているだけあって、やはりスタジアムで見るにはちょっと広すぎると感じた。その分を現在のテクノロジーで補っていたので、十分楽しめたが、もうちょっとだけ壁が派手に崩れたら完璧だったのではないかなとも感じた。
いずれにせよ、「ニューヨークの野球場でザ・ウォールを見る」というのが主旨だったので、巨大コンサートやアメリカのコンサートに付き物なネガティブな部分も含めて堪能でき、旅は本当に満足のいくものとなった。一人では手続きが大変だったところを同行させてくれた友人にも感謝。2年経ってもツアーを続けてくれたロジャーにも感謝。
来年のヨーロッパ・リターン・ツアーの噂は如何に?
Roger Waters
July 6, 7, 2012
Yankee Stadium
Bronx, NY
The Band
Roger Waters / Vocal, Bass, Guitar, Trumpet
Graham Broad / Drums
Dave Kilminster / Guitars
G. E. Smith / Guitars
Snowy White / Guitars
Jon Carin / Keyboards
Harry Waters / Hammond Organ
Robbie Wyckoff / Lead Vocal
Jon Joyce / Backing Vocal
Kipp Lennon / Backing Vocal
Mark Lennon / Backing Vocal
Pat Lennon / Backing Vocal
Set1
01 Outside The Wall
02 In The Flesh?
03 The Thin Ice
04 Another Brick In The Wall Pt 1
05 The Happiest Days Of Our Lives
06 Another Brick In The Wall Pt 2
07 The Ballad Of Jean Charles de Menezes
08 Mother
09 Goodbye Blue Sky
10 Empty Spaces
11 What Shall We Do Now
12 Young Lust
13 One Of My Turns
14 Don't Leave Me Now
15 Another Brick In The Wall Pt 3
16 The Last Few Bricks
17 Goodbye Cruel World
Set2
01 Hey You
02 Is There Anybody Out There?
03 Nobody Home
04 Vera
05 Bring The Boys Back Home
06 Comfortably Numb
07 The Show Must Go On
08 In The Flesh
09 Run Like Hell
10 Waiting For The Worms
11 Stop
12 The Trial
13 Outside The Wall
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コメント
いつもながらのライブレポートありがとうございます.
海外遠征なんてとても真似できません.羨ましい限りです.
フロイドのライブの音が素晴らしいというのは聞いていましたが、ロジャーもそうなのですね.自宅のオーディオより良いなんて想像もできません.
「鬱」ツアーでの来日公演に行かなかったのを今でも後悔しています.後に「光・パーフェクトライブ」を観た時に「こんな凄いライブだったのか!」と死ぬほど後悔しました.
「光」はDVDにもなっていないですよね.「驚異」もDVDまでで.収録がハイビジョンじゃないからBlu-ray化は無理としても、2作とも高画質・高音質で観たいものです.
S.ホワイト、まだ活躍していたなんて嬉しいです.
投稿: トースケ | 2012/07/17 22:46
>トースケさんn
88年のフロイド日本公演は武道館初日と大阪城ホール2公演を見ました。チケットが高すぎたせいか、大阪はガラガラでしたけど凄かったです。『光』はDVD化してほしいですね。
スノーウィー・ホワイトまだまだ現役でがんばっていました。ロジャーのThe WallのDVDも早く出てほしいです。
投稿: tangerine | 2012/07/19 03:53