追悼 Storm Thorgerson 1944-2013
ロックのアルバムのジャケット・アート界の巨匠で元ヒプノシスのストーム・ソーガソン (ストーム・トーガソンとも表記)が4月18日に長い闘病生活の末、亡くなったとのこと。
大好きなアーティストのひとりで、10代半ばの頃から彼がジャケット・アートを手がけたロックの作品を沢山聴いて育った世代なので、ショックが大きい。上記写真用に所有しているCD, レコードを一通り掘り出してみたが、結構な数量になった。写真集は1978年に出版された"The Work Of Hipgnosis, Walk Away Rene"を持っている。
1968年にPink Floydのセカンド・アルバム『神秘』(A Saucerful Of Secrets)のジャケット・デザインを担当したことを機会に、ロック・アルバムのアートに革命を起こしたデザイナー集団「ヒプノシス」の創設者。
70年代を中心にプログレッシヴ・ロックやハード・ロックを中心に数多くのインパクトあるアルバム・ジャケットを手がけ、1983年のヒプノシス解体後もソロ名義で活躍した奇才だった。
作風は「ヘンテコなもの」「難解なもの」「とにかくインパクト重視」「美しい」「シンプル」と多様だが、ひと目見て「あ、ヒプノシスだな」と分かってしまう説得力を持っていた。
今ならCGを駆使してあっという間に出来るトリッキーな撮影を本物でやってしまうことにこだわり、海岸にベッドを数キロメートルに渡って何百台と並べたり、数十メートルのブタの巨大風船を飛ばしたり、巨大なオブジェを鉄と石それぞれ2種類使ってジャケットも2種類にしたりと、今の感覚では「なぜそこまで」と思うほど。
ピンク・フロイドのほぼ全ての作品のアートを担当していたが、1977年の『アニマルズ』の有名すぎる発電所の上を豚が飛んでいるジャケットをロジャー・ウォーターズが「自分の発案なのでクレジットにも自分を入れる」と主張したことから仲違いし、その後の『ザ・ウォール』『ファイナル・カット』には参加せず、ロジャー脱退後にアート担当に復帰したことは有名な話。
Led Zeppelin, Yes, Genesis, Wishbone Ash, Renaissance, 10cc, Peter Gabriel, Brand X, UFO, Alan Parsons Projectなどの作品が有名だが、「実はこれもヒプノシス or ストームの作品だったんだ」と意外に思えるものも少なくないようで、訃報を機会に再発見したという知り合いも複数おられた。
一番有名でヒプノシスの代名詞になっているのがピンク・フロイドの『狂気』(Dark Side Of The Moon)(1973)と『炎』(Wish You Were Here)(1975)だろう。リマスターなど、それぞれ新しいフォーマットが出る度に買い直してしまう作品。
豚がロンドンのバタシー発電所の上を飛んでいるジャケットの『アニマルズ』もインパクトがあって、2000年の暮れにロンドンに行った時に訪れて、おなじような角度で写真を撮ってきた。
一番インパクトがあったのが、Peter Gabrielのサード・アルバム。音のほうもゲートエコーなど当時としては革命的な斬新さだった。顔が溶けているように見えるのはグリセリンを塗ったガラス越しに撮影したからとのこと。12インチシングルや7インチシングルでは別テイクのアートも見られる。
美しいものとしてはのELPの1972年の4枚目"Trilogy"の内側が綺麗。写真なのか絵なのか、ぱっと見ただけでは分からないタッチ。
Genesisの1978年の『そして3人が残った』(And Then There Were Three)も非常に思いいれのあるアルバムで、これもリマスターごとに買い直している。内側のジャケットの風景も美しい。
ジャーマン・ロックの重鎮でいながら現役でテクノ・フェスティバルにも積極的に参加し、日本のテクノ・ファンの若者からも絶大なるレスペクトを受けているマニュエル・ゲッチング率いるAshraの"Correlations"のジャケットも美しく、「音の内容とアートが完璧に融合している」と思える作品。
レッド・ツェッペリンの1979年の実質ラスト作"In Through The Outdoor"は6種類のジャケットが茶色の紙袋に入って発売され、買うまでどれが当たるのか分からないという当時は前代未聞のスリーヴだった。
昨今のアイドルのCD販促のための同音源・複数ジャケット商法の元祖が、ツェッペリンとヒプノシスのコラボだったとは!
レコードでは1種類しか買えず、写真は2008年に発売された紙ジャケ・ボックスの特典でジャケットのみ再現付録になっていたもの。
ピンク・フロイドの1994年のライブ・アルバム"Pulse"もCD、レコード、カセットテープ、レーザー・ディスク、Video-CD、DVDと多数のフォーマットを揃えた。輸入盤CDは背表紙に赤いLEDが付いていて内臓電池でチカチカと点滅するというブッ飛んだ仕様で、夜中に本棚でチカチカ光るのが怖くて電池を外したのを覚えている。
2011年にピンク・フロイドの作品が全作品リマスター再発されたときに、ボックスもののデザインも手がけており、ほぼ末期の作品となったのではないだろうか。
ジャケット・アートとして最適の大きさだったアナログ・レコードが消え去り、アート・メディアとしては小さすぎたCDも消滅に向かって、ネット配信にシフトしている昨今では、音楽とアートを結びつけることがどんどん困難になっている。
ストームが亡くなり、アルバム・ジャケット・アートの一つの時代の終焉を見たようで寂しい限り。彼の遺産は大切に後世に受け継ぎたいと感じる。
http://www.stormthorgerson.com/
http://www.hipgnosiscovers.com/
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コメント
ルネッサンスの「燃ゆる灰」もそうだったんですか!メンバーの写真なので、ヒプノシスが手掛けてる、なんて思いもしなかったです。
私は84年生まれなので、思いっきりCD世代でレコードは憧れのモノですね。ハードオフなどで、聴く機器もないのに買ったり(^^;;プログレは特に目を惹くジャケが多いのでプログレガイドは見てるだけでも楽しいです。
音楽が形のないモノになっていく今だからこそレコードの再評価が高まっていてレコードも出すバンドも多いですし、レコードを聴く若者も増えているようです。
そういう中でヒプノシスの手掛けたジャケットは目を惹く力を持ってますし、手掛けたもらったバンドと共に、レコードを知らない世代の人達に興味を持って頂ければ嬉しいですね。
投稿: 小野羽 敦志 | 2013/04/21 21:15
おお、そうだったんですか、知らなかった.何かドラマを感じさせるインパクト、という点で他のアートを圧倒していましたね.
GENESISの「そして3人」もそうだったなんて知りませんでした.
実はおもしろいことがあって、ゆうべたまたま寝る前に布団のなかで「狂気」を聴いたんです.春になると聴きたくなるもんで.
で、今日F1バーレーンGPを見ていたらパドックにN.MASONの姿があって、そういえば彼は車が好きだったっけ、なんてことを思い出して.で、F1中継が終わってココを見たらこの記事.
偶然とは言え、フロイド繋がりの1日でした.
ご冥福をお祈りします.
投稿: トースケ | 2013/04/21 23:41
前ユーミンの番組で映っていたとき体が悪そうで心配していたのですが 残念です。10年ほど前に来日されて名古屋のパルコで握手してもらった時はすごいインパクトのある人で感動したのですが。(サインはもらったのですが行方不明なのは残念)CDになりだんだんアルバムのジャケットを含むトータル性が気薄になっていく中残念でなりません。
投稿: kevin kazuki | 2013/04/22 12:30
>小野羽 敦志さん
コメントありがとうございます。
『燃ゆる灰』はソフトフォーカスのメンバー写真がとても印象的で、ウィッシュボーン・アッシュの"Wishbone Four"のメンバー写真と並んで好きです。
上記のCDリストの写真も、レコードで持っていて買い直したものがほとんどなのですが、やはりCDだとアートに限界があって厳しいですね。
アナログ・レコードがなかなか手放せないのも音が良い上にアートが美しいからだったりします。
84年といえばCDが出回りはじめた頃ですね。87年頃まではまだレコードが主流で、CDはレコード店の片隅に一列だけコーナーがある程度だったのですが、1年位で逆転しましたねー。
まだまだレコードの魅力を理解してもらえる和い世代の方がおられるのは嬉しいですね。ヒプノシスやストームのアートの魅力も、後世にずっと語り継がれたいものです。
投稿: tangerine | 2013/04/22 20:44
>トースケさん
『幻惑のブロードウェイ』から『そして3人が残った』までの4枚連続でヒプノシスなのは知らない人も多そうですね。『静寂の嵐』とかあまりヒプノシスらしくないし。
バーレーンF1にニック・メイスン映っていたのですか!見ればよかったです。
1992年に出た"La Carrera Panamericana"というピンク・フロイドのニック・メイスンとデヴィッド・ギルモアが参加したクラシック・カー・ラリーのビデオを持っていますが、かなりのレース好きみたいですね。
投稿: tangerine | 2013/04/22 20:51
>kevin kazukiさん
おー、ストーム本人と握手したことがあるとは!サインまであるとは貴重ですね。そういえばストーム・トーガソン展を心斎橋に見に行ったことがありました。
ユーミンのドキュメントにも出ていたのですね。録画しているはずなので探してみます。
投稿: tangerine | 2013/04/22 20:54
バーレーンGPにメタリカも来てましたよ。
中継ではカークが大写しになってましたが、
他のメンバーも(ジェイムズは別行動?)観に来てたみたいです。
下記URLに写真があります。
http://metallica.livedoor.biz/archives/51872470.html
投稿: himajinmetal | 2013/04/26 00:30
>himajinmetalさん
情報ありがとうございます。セレブが集まっていたんですね。昔からミュージシャンにはカーレース好きが多いようですね。
今年はサマソニで久々にメタリカが見られそうで、楽しみです。
投稿: tangerine | 2013/04/26 03:17
鬱のバカみたいにベッドが並べてあったのが忘れられません。「プレゼンス」の親子三人が嬉しそうに黒い物体見てたのも印象深いです。ヒプノシスの現物主義のアートは刺激的でした。
フロイド関連ではどんどん鬼籍に入られてる人が多いようでスティーブ・オローク、マイケル・ケイメン。リック・ライト、シド・バレット
悲しいですが
投稿: しいのき | 2013/04/28 22:57
>しいのきさん
コメントありがとうございます。
欝のベッドは衝撃的でしたね。今の若い人が見ても、まずCGで合成したものと思うでしょうね。莫大な予算と手間をかけてやっているのに・・・。
プレゼンスの黒い物体も2001年のモノリスのようで凄く印象的でした。
フロイドはシドとリックが立て続けに亡くなった感じで、特にリックは一番好きなメンバーだったので残念です。
しかしロジャーは現在もツアー続行中で、本当に精力的ですね。
投稿: tangerine | 2013/04/29 08:50