追悼 Edgar Froese (Tangerine Dream) 1944-2015
1970年のレコード・デビューから45年のキャリアを持つドイツの音楽グループで最初期からのエレクトロニクス・ミュージックのパイオニアであるTangerine Dream(タンジェリン・ドリーム)の創始者であり唯一のオリジナル・メンバー、Edgar Froese(エドガー・フローゼ)が1月20日に自宅のあるウィーンで急逝したとのこと。死因は静脈血栓塞栓症で享年70歳。
私のネットでのハンドル名tangerineはこのTangerine Dreamからとったくらいのファンで、ショックで言葉が出ませんでした。
訃報が発表されたのは日本時間の1月24日の未明で、その前日まさにタンジェリン・ドリームの2011年からのメンバーでヴァイオリニスト山根星子さんのソロ・プロジェクト"Tukico"を大阪 阿波座のnu thingsで鑑賞したところでした。ライブはPCでのループ音にヴァイオリンでのインプロヴィセーションを重ねていくという心地よいものでタンジェリン・ドリームの音楽の発展系が日本人のメンバーによってここにも息づいているという感動的な内容でした。
ライブ終了後に山根さんと少し会えたのですが、次のツアーのことなども話しておられ、この時点では訃報を知らなかったようです。
去年11月20日のオースラリア・ツアーのメルボルンのACMI Melbourneでの"SORCERER"(恐怖の報酬)のサウンドトラック再現を中心とする内容のコンサートがエドガー・フローゼのタンジェリン・ドリームとしての最後となりました。
Kraftwerk, Cluster, Klaus Schulzeらと共にジャーマン・エレクトロニクス・ミュージックの黎明期を築いたミュージシャンで「電子音楽」というものが一般的でなかった70年代初頭において当時は値段が車1台分もしたシンセサイザーという未知の楽器を全面的に押し出して作曲やライブ活動を展開し、ワールドワイドに成功した最初のグループ。
クラフトワークの『アウトバーン』とタンジェリン・ドリームの『フェードラ』が共に1974年に世界的ヒットとなったのも象徴的です。
エドガー・フローゼ自身はギタリスト出身でジミ・ヘンドリクスのフィードバックのようなドローンなインプロヴィセーションを得意としていたようで、電子音楽になっても「混沌」と「静寂」を表現する不安定さが所期タンジェリンの特徴となっていました。それは図らずも「二度と同じ音が作れない」当時のアナログ電子楽器の電圧的にチューニング不安定な構造と、シンプルで力強いシーケンサーのパターンの絶妙な組み合わせが醸し出すマジックだったと感じます。
ただエドガー・フローゼ本人は「思った音の出ない」当時のアナログ機材に不満もあったようで、デジタル時代になってからの膨大な作品量は自分の表現を具体化するのにテクノロジーが追いついたというのもあったかもしれません。しかしそれらの作品のなかにもタンジェリン独特のメロディーにならない「音響」が存在していてそれが幾度のメンバー・チェンジを重ねようとグループのアイデンティティーとなりうるものだったと思います。
以前のブログでも書きましたが初めてリアルタイムで聴いたのが、1977年の映画『恐怖の報酬』(Sorcerer)のサウンドトラックのテーマ曲『裏切り』(Betrayal)で、NHK-FMの映画音楽番組でかかったものでしたが、あまりのカッコ良さにエアチェックしたテープを繰り返し聴きました。
個人的には1972年のサード・アルバム"ZEIT"(ツァイト)が一番好きで、人生で重要な10枚に挙げているほど聴きまくったアルバム。一時期は眠れない夜に毎日聴いていました。リズム無し、メロディ無しで、ひたすら混沌とした音響が続く2枚組レコード。ただ唯一聴き易い部分が1曲目でゲストのPopol VuhのFlorian Frickeが演奏するモーグ・シンセサイザーの旋律だけ。
タンジェリン・ドリームを見たのは下記の4回。それぞれのレポートは過去のブログに書いています。
1983年6月28日 大阪 フェスティバルホール
2008年7月18日 ドイツ Loreley, Prog Fes
2009年9月5日 伊豆 Metamorphose09
2012年5月10日 ドイツ Berlin, Admiralspalast
2009年の伊豆METAMORPHOSEのライブDVDボーナス映像に現地サイン会でエドガー・フローゼと握手する満面の笑みの自分の姿が映っていて喜んだのでした。
手持ちのタンジェリン・ドリームのCDを整理してみると約130枚。膨大なディスコグラフィーで廃盤も多く不所持ものも多いです。近年の自主レーベルからのリリースは多すぎてフォローできず。
エドガー・フローゼのソロ。タンジェリン・ドリームと比べて聴き込みが足りませんでしたがやはりaquaとepsilon in malaysian paleが好きです。
エドガー・フローゼの不在はエレクトロニクス・ミュージック全体において大きすぎる喪失ですが20人以上のメンバーが在籍したタンジェリン・ドリームの音楽はそれぞれのメンバーとフォロワー達の中で大きな遺産として受け継がれていくと思います。
公式な訃報にも書かれていたエドガーの言葉は素敵すぎて安らげます。
"There is no death, there is just a change of our cosmic address."
山根星子さんの追悼文
http://www.hoshikoyamane.com/%E8%BF%BD%E6%82%BCedgar-froese/
冒頭の写真は2009年の伊豆メタモルフォーゼ公演で自分が撮ったエドガーです。
| 固定リンク
| コメント (10)
| トラックバック (0)
最近のコメント