怪獣使いの遺産
ネットでも賛否両論で大論争になっている、先週放送のウルトラマンメビウス第32話『怪獣使いの遺産』を見た。1971年11月19日に放送された帰ってきたウルトラマン第33話『怪獣使いと少年』の正式な続編となる。
全ウルトラシリーズを通して最大の問題作といっていい『怪獣使いと少年』は、子供の頃リアルタイムで見て、しばらくショックで食事もできなくなってしまった程の内容だった。日本人の意識の奥深くに根付いている差別感情と民族意識をこれでもかと見せつけられ、後味の悪さもウルトラセブン第42話, 『ノンマルトの使者』を彷彿とさせるものがあった。
地球に気象観測に来たものの、病魔に冒されて帰還できなくなったメイツ星人は、乗って来た円盤を念動力で河原深くに埋める。北海道出身の身寄りのない少年が、金山という老人に擬人化したメイツ星人と廃屋に同居しながら、円盤を掘り起こそうと日々河原でスコップをふるう。怪しげな老人と暮らす挙動不審な少年を宇宙人扱いして徹底的に差別し、目を覆いたくなるような迫害を加えるイジメっ子グループと町の住民達。唯一の希望は少年を対等に扱ってパンを売ってくれるパン屋の娘だけ。
結局メイツ星人は、町民にリンチを加えられそうになった少年を庇って、警官に射殺され、メイツ星人が円盤と一緒に河原に封じ込めていた怪獣ムルチが覚醒してしまう。地球人の排他的でご都合主義の態度に、同じ宇宙人であるウルトラマン=郷秀樹は完全に愛想を尽かしてしまうが、結局郷隊員は息伊吹隊長に叱責され、ウルトラマンに変身して怪獣を倒す。ラスト、メイツ星人が死んでも円盤を探し出そうと、河原を掘り続ける少年。彼も地球に愛想を尽かして、メイツ星に行きたかったのだ。
全編を通して降り続く雨、修行僧のコスプレで少年と郷隊員を見守る伊吹隊長、印象的な音楽、凝ったアングルは秀逸で深く脳裏に残る。脚本を担当した沖縄出身の上原正三のテーマは明確で、子供心にも突き刺さった。
それから35年。
オープニングは河原を掘り返す少年と、それを見つめる少女。BGMはあの前作でかかっていたオカリナのテーマソングそっくりの曲。今回もメイツ星人が地球にやってきて地球人との対話を求める。ウルトラマンメビウス=ヒビノ隊員はそれを承諾するが、またしてもGUYSの隊員に銃撃を加えられ、怒ったメイツ星人は連れてきた怪獣ゾアムルチを覚醒させる。なんとか説得を試みるGUYSの隊員。しかし復讐に燃えるメイツ星人は前回で地球人に射殺されたメイツ星人の息子だった。
脚本は少年時代からウルトラシリーズの大ファンだったという直木賞作家の朱川湊人という人で、私と同じ歳。まさに直球ど真ん中で影響されたのだろう。何となれば、我々世代ひとりひとりが独自の続編を考えることだって可能だろう。今回は宇宙人の言動に稚拙な部分があるし、メビウスらしいポジティブな美談化&子供でも理解できる内容へのソフィスティケイテッドが目立つ。そこらへんに反論が集中しているようだが、とりあえずあの35年前の名作を再度広く布教したことだけは評価したい。
かつての少年の知り合いだった少女が幼稚園の園長先生となり、メイツ星人を説得するのだが、演じているのが何と斉藤とも子。歳をとっても美しかった。
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